English Dawn
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柊英/文庫サイズ/R15/P40/手製本 撮影のために英国を訪れる柊英のお話。 ブルーベルの花畑で一緒に撮影したり、マナハウスのバスルームで戯れたり、朝露にほんのり濡れながらお散歩してたり。 そんな二人がいます。 Twitterで気の向くままに書いていたお話を加筆修正したものになります。 ※手製本のため仕上がりにムラがあります。ご容赦くださいませ。
サンプル文
…day1 ちょっとだけ、異世界にいるみたいだ。 撮影のチェック待ちをしている英知は、そんなことを思いながらブルーベルが咲く道を歩く。大きな木々の下、青い花の絨毯がどこまでも続いていた。近くには小川があり、穏やかなせせらぎが耳に心地よい。遠くに聞こえる鳥の声は、日本ではあまり馴染みのないものだった。 約十三時間のフライトを経てヒースロー空港に着くと、慣れない空の旅に疲れが押し寄せてくる。しかし、列車に乗り込みのどかな田園風景を眺める頃には、慌ただしい日々から逃れているようで、子供のようにはしゃぎたくなっていた。 実際は撮影キャラバンによる旅で、休む間もなく撮影をこなしている。今回、世界的ブランドの日本展開イメージユニットとしてQUELLが選ばれたことから、こうしてウェールズの地まで足を運んでいた。 あまり遠くまで行ってしまっては迷惑になるだろうと思うが、やはりどこか気分が浮ついているのだろう。好奇心から先へ先へと進んでしまう。 ふいに空間が開けた。林を抜けると、そこは小高い丘になっており、春の訪れを告げる風が吹いている。丘の先には石造りの堅牢な城塞が見え、空は雲ひとつない青空が広がっていた。思わず感嘆のため息が漏れる。 「英知」 心地よいバリトンが背後から聞こえてくる。振り返るとそこにはユニットリーダーである和泉柊羽の姿があった。撮影用のカンブリックシャツがよく似合っている。 「こんなところにいたのか」 微笑みながら、林から出てくる美丈夫の姿。このままどこかの御伽噺の挿絵にでもなりそうだ。 「柊羽は本当に絵になるね」 思わず関心して頷いている英知に、柊羽は笑った。 「それを言うなら、花束を持って丘を背にする英知も、なかなか絵になってるさ」 そういえば、と英知は自身が持っている花束へ視線を落とした。撮影に使用していた花束をスタッフから貰い、そのまま持ってきてしまっていたのだ。 「チェックが予定よりも時間がかかるそうだ。撮影再開は一時間後に変更になった」 「そっか」 だったら、と柊羽を誘う 「ちょっとここでゆっくりしてようか」 あまり遠くへ行くのもはばかられたので、丘で時間を過ごすことにする。先ほどから撮影で幾度となく地面に座っていたので、衣装だが気兼ねなく座り込むことができた。空を見上げ、飛んでいく鳥に目を眇め、風に揺れるスイセンに心和ませる。 「気持ちいいねぇ」 「ああ」 柊羽は頷き、そのまま体を後ろへと倒した。そして「このまま眠ってしまいたいな」と呟きながら、言葉通り瞼を閉じた。時折、彼はこんな風に無防備な姿を見せる。そんなとき、英知は面映ゆさを感じながらも、幸せな気持ちに包まれるのだ。 いつしか規則正しい寝息が聞こえきた。柊羽の胸がゆるやかに上下していることを確認すると、風に吹かれて目の上にかかった前髪を優しく払う。ただでさえ多忙なスケジュールだというのに、あの長時間移動からの撮影だ。疲れもたまっているのだろう。少しの時間ではあるが、休ませてやりたいと思う反面、話し相手がいなくなり、多少寂しくもある。 自分も少し寝てしまおうかという甘い誘惑に抗っていると、指先に花束が触れた。ブランドコンセプトである色とりどりの野草。野ばらやエルダーフラワーなどがバランスよく束ねられているのを見て、ちょっとした悪戯が頭をよぎる。 幾本か花束から抜き出し、眠る柊羽の髪へ飾っていく。滑らかな手触りの髪は、すぐに花が落ちてしまう。落ちないよう、英知は慎重に花を一つ一つ、柊羽の髪へ飾っていった。 「眠り姫も真っ青な美しさだよ、柊羽」 我ながら満足のいく出来上がりに、思わず呟く。すると眠っているとばかり思っていた柊羽が、笑い出し、飾っていた花が、さらさらと零れていく。 「っ……、いつから起きてたの」 「ずっと起きてたよ」 くすくすと笑いながら、俺が眠り姫か、と英知の言葉を繰り返した。 独り言を聞かれた恥ずかしさも手伝って赤面していると、柊羽が半身を起こし、小さく手招きをした。なぁに、と顔を寄せる。すると柊羽は零れた花の一つを手にとると、そのまま英知の髪へ飾った。 「キスで起こしてくれてもよかったのに」 そうして柊羽は英知の頬に悪戯にキスをひとつ。 英知の顔はさらに赤くなり、丘には柊羽の楽しそうな笑い声が風に乗り、響き渡った。