Re:M*H -2-
- 物販商品(自宅から発送)あんしんBOOTHパックで配送予定¥ 1,300
A6 / 188P / R18 /2011-2012の西英再録。 「とある森のお屋敷で」 「とある森のお屋敷で。+」 「Under the Sea」 「Under the Sea +」 「Under the rose」 「Think of you :if」
「とある森のお屋敷で。」(一部抜粋)
大きな屋敷のたった一人で住む主人は、あまり料理が得手なほうではないようだった。 しかし、それでも食事を与えられただけ有難いと思わなければならないだろう。冷たく、なんとも表現しようもない口当たりの食事だったとしても、だ。 皿にもられたこれは何かのパテだろう。しかし口にしても何の肉を使ったパテだか一向に想像が出来ない。妙に生臭く、赤みが強い。鉄臭さが鼻につく。カークランドは何食わぬ顔してそれを咀嚼している。 「……」 カリエドはグラスに注がれた葡萄酒でそれを流し込む。真っ赤なグラスに、真っ赤な葡萄酒。なぜかそれは、とろりとした口当たりで喉を通り抜けた。カークランドに視線をやると、ちょうどグラスを傾けているところだった。形のいい唇がグラスに口付け、紅い葡萄酒をあおる。白い喉が上下する。塗れた唇を、赤い舌が舐めた。見てはいけないものを見てしまった気がして、視線を外す。壁にかかった像と目があった。牡牛と人間と山羊の頭を持った半身像。再び赤い液体を喉に流し込む。葡萄酒には飲みなれているはずなのに、あまりにも強い芳香とアルコールに、くらりとした。
「UNDER THE SEA」(一部抜粋)
***航海 一日目 太陽の沈むころ 無い。 どこにも無い。 部屋中探しても、『それ』は見つからなかった。 アーサーは被っている帽子を脱ぎ捨てたい衝動に駆られながら、部屋を見渡した。 一等船室らしく豪華な造りの部屋には、アーサー以外に誰もいない。リヴァプールからニューヨークまでの長い船旅の間、この部屋の主となっている人物は、今は出かけており不在だ。指紋が残らないように手袋をはめ、髪が落ちないように帽子をかぶった。見つかればただではすまないような行為をしている。 「……」 残る部屋が、あと一つだけある。しかし、この部屋の主がつけたらしい錠前がかけられており、アーサーには開けることが出来ない。『それ』は、その部屋に眠っているのか。それとも、部屋の主が肌身離さず持っているのか。時計を見るとタイムリミットが迫っている。これ以上この場にいると主が帰ってくる危険性が高くなる。歯がゆさを感じながら、アーサーは外の様子を伺いながら部屋を出た。鍵を閉める。素早く手袋と帽子を脱ぐ。 帽子の中からは、金色の髪が、手袋からは白く美しい指先が現れる。 廊下にかけられている真鍮のランプは、磨き抜かれて鏡のようになっている。アーサーはそこに映る自分の姿を確認し、帽子をかぶりなおした。そして何食わぬ顔で歩き出した。
「Think of you. : If. 」(一部抜粋)
夏の暑い陽射しの中、広場には多くの人々が、即席の店を構えていた。陽射しを避けるよう、布で簡易的な屋根を作っているものも少なくない。彼は木陰の下に陣取り、持ち運び式の小さな椅子に座っていた。 くすんだハニーブロンズを陽射しから守るように、麦わら帽子をかぶり黙々と本の頁を繰っている。 彼の前には雑多な物品が並んでいる。それらは、あざみの刺繍が散りばめられた布の上に無造作に置かれていた。陶器の人形、異国の言葉で書かれた書物、銀のティースプーン、海の写真、傷だらけの懐中時計、カフスボタン、チョコミント柄のランプシェード、空っぽの香水瓶、等々。 さほど大きな町ではないが、古物市を楽しむ人々で広場は賑わっていた。数人の人々が、彼の前で立ち止まっては去っていく。彼は特に気にする様子もなく、静かに文字を追うだけだ。彼の脇に置かれた、水の瓶が汗をかいている。小さな水滴が集まって、つぅと瓶の表面を伝っていく。広場に、爽やかな風が吹き抜けた。彼の瞳が文字から離れる。だが、それもすぐに戻った。 彼のまわりだけ、静かな時が流れる。 広場の前には教会がある。暫くすると、正午を告げる鐘の音が鳴った。 「見つけた」